十七・永嘉



 昭和十二年九月三日、最前線永嘉堡に到着。敵は天鎮山頂にあり。永嘉堡駅前のわが砲兵陣地から砲声がしきりにとどろいていた。
 駅の周辺に民家がないのは珍しくなかったが、ここは事情が違った。住民は山の斜面に横穴を掘って居住しているのだ。

*補足(藤本)
 石坂准尉の初陣である。先に匪賊討伐のために出動しているが、強盗相手の戦闘だから除外して差し支えない。
 一体、この二十代の若者は、人と人が殺し合う戦場に何を見たのだろうか。
 私はただ、若い頃の思い出を熱く語る老准尉の言葉に耳を傾けるだけである。

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