六十二・復員 |
「夢にまで見た日本。船上から見る日本は実に美しい」 昭和二十一年三月六日、浦賀港に入港。港には迎える人もなく寂しい帰還だった。おまけに日本全土が荒廃していたために通信は途絶、親元に復員を知らせるすべもなかった。 事務処理を完了すると、歴史ある高田歩兵第三十連隊は解散した。戦友と尽きない別れを惜しみつつ、それぞれの故郷に向かった。 |
*補足(藤本) 「長い間お疲れさまでした、石坂准尉。約八年間にわたって苦闘した軍隊生活は終生光り輝いていること間違いありません。貴官が子供の頃、兵隊さんに憧れて戦争ごっこばかりしていたのが、そのまま夢かなって帝国軍人になられたのは運命的に思います。貴官はいつまでも子供心を持っている方で、きっと死ぬまで兵隊さんが好きなんでしょうね。私はその純朴で汚れのない心が好きです。軍人はいつの時代も男の子の英雄です。貴官はまさに、私のような『夢見る少年』の英雄になられました。そう、貴官が子供の頃に憧れていた兵隊さんその人と、同じ立場に立ったわけです。 わが帝国陸海軍と歩兵第三十連隊の栄光は不朽です。その精神は不肖藤本が死ぬまで伝え続けます。生意気ですけど、どうかお許しください。あまり役になっていない非国民の私にはこれくらいしか奉公するすべがありませんので」 藤本泰久より石坂准尉へ |
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