五十二・輸送船



 関東軍の精鋭は沖縄防衛の任を帯びて太平洋を南下する。

*補足(藤本)
 常々思うのだが、本来は沖縄本島防衛の前進基地として宮古島があったはずである。しかし、米軍は宮古島をすり抜けて沖縄に直接上陸した。幸運といっては何だが、そのことによって石坂准尉は生きて帰ってこられた。もしも、歩兵第三十連隊が沖縄本島配備部隊であったら、強運の石坂准尉であっても、激戦によって戦死していたかもしれない。
「俺は北支の戦場を巡り、あのノモンハンにも行った。だけど、不思議と敵弾が当たらない。せいぜい、原平鎮で一発食らったくらいだ。つくづく俺はついているんだな」
 豪快に笑いながらそう話す石坂准尉を前に、私は妙な感慨を覚える。


*補足二(藤本)
 竜沼梅光『北満・宮古島戦記 
戦局と将兵の心理』という本に、宮古島の戦略的な価値に関する記述がある。

***

 米軍の将校から聞いたという話を私は思い出していた。米軍は宮古への上陸作戦を、三度にわたって企画したそうだ。だが彼等はこの島は防備が非常に堅く、兵力は十万以上と見ており、上陸は困難と考えていたようだ。だが本土への攻撃が最大課題となると、航空基地の増強が必要となり、宮古は米軍にとって無くてはならない島となり、八月二十五日に如何なる犠牲をはらっても、上陸作戦を敢行する作戦であったらしい。ところがその九日前の八月十五日、日本は力尽き、戦いの終結をみたのである。

『北満・宮古島戦記 
戦局と将兵の心理』の二百七十七ページから引用

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