歩兵第三十連隊炊事場の冷蔵装置 (『糧友』より)


題名
糧友
著者

出版
糧友会

昭和五年九月二十六日印刷納本
昭和五年十月一日発行
備考
昭和五年十月号


歩兵第三十連隊炊事場の冷蔵装置
滝 響

 軍隊に冷蔵装置を設くることに依つて軍隊生活を潤沢ならしめ得ることは疑ひない事実として予々想像もし希望もしてをつたが、今度高田の歩兵第三十連隊で之を実行し頗る経済生活の実を挙げある由を聞いたので其の状況を左に紹介する

 最近歩兵第三十連隊に於て炊事場に冷蔵装置を施設し生肉、生魚類の大量貯蔵を実施し多大の利益を収めつつあり。本装置完成以来利益を得たる一端を例せば次の如し、
一、最近七尾(石川県)に於て鰤の大漁あり給養に充てんが為平常出入商人より見積書を徹せしに一貫匁一円三十銭なりしも七尾の当業者より供給せしめし処二百貫匁を隊着値段一貫匁につき金八十銭にて購買することを得直に冷蔵庫に収蔵せり之が為百円の利益を収得したり。
二、又生獣も枝肉にて購買し置き所要の都度所要量を出し使用しありて経済上、業務上多大の利益を得つつあり。
 尚本装置は副作用的に一昼夜約六十貫の製氷能力を有するを以て炎暑に際し中隊下士卒に氷を加給し又酒保に於て氷水とし廉価に販売し大に歓迎せられつつあり。
 右装置はアンモニア式にして冷却機械及製氷装置一一式並三馬力モーターを備ふものにして設備費総額二千九百八十八円なり。

 右は責任ある調査に依るものであるから確かなものと見てよい。独り軍隊と云はず団体生活をしてゐる処は此の冷蔵装置に依つて給養上の好成績を収めたらばよからうと思ふ。先鞭をつけた歩兵第三十連隊の当局からも孰れ詳しい成績の発表があらうと思ふけれども不取敢善は急げで梗概を紹介した訳である。



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