明日ノ戦闘ニ対スル我等ノ心得 |
表紙 |
題名 |
明日ノ戦闘ニ対スル我等ノ心得 |
著者 |
歩兵第三十連隊 |
出版 |
歩兵第三十連隊 |
版 |
昭和九年三月十五日 |
備考 |
秘 |
明日ノ戦闘ニ対スル我等ノ心得 一、我等ノ敵ハ 1 体ガ大キク 2 困苦欠乏ニ耐エ 3 ネバリ強クテ 4 防御ガ得意 併シナガラ 1 元気ニ乏シク 2 のろまデアツテ 3 和衷協同ニ欠ケ連係ガ不充分 4 攻撃ハ下手デ夜襲ハ不得意 ○故ニ我等ハ一人デ少クモ五人位ヲ対手ニ戦フコトハ楽ナノデアル 5 我等ノ敵ハ強イモノト見ルトムヤミニ臆病ニナリ弱イモノト見ルトムヤミニ強クナル ○故ニ如何ナル時ニモ弱味ヲ見セルコトハ大禁物デアル 二、我等ノ戦場ハ 1 大キナ地形デ何百里トナク続イテ居ル広イ原野ガ大部分デ地物モ少ク村落モ水モ少ナイ併シ時ニハ山地ヤ森林デ戦フコトモアル 2 気候ハ夏ハ百二十度、冬ハ零下五十度位ニナルコトガアル日本内地トハ大分違フ 三、敵ノ防御ノヤリ方ハ 1 軽機、重機、歩兵砲、大砲等デ遠クカラ我ヲ撃チ 2 小銃兵ハ逆襲部隊トシテ隠シテ置イテ我レガ接近シ又ハ突入スルノヲ待ツテ側方カラ逆襲シテ来ル 3 敵ノ陣地ハ奥行ガ深ク通常陣地ノ第一線カラ後端マデ四吉米モアツテ其間ニバラ〴 〵ニ配備サレテ居ル 四、敵ノ弱点ハ 1 協同連係ガ不十分ノクセニムヤミニ兵力ヲ広クバラマキ 2 射撃ダケニ頼ツテ銃剣突撃ハ極メテ下手ダ 3 殊ニ夜間ノ戦闘ガ頗ル拙ク 4 我レガ敵ノ側面ヲ包囲シタリ背後ニ迂回デモスルト非常ニアワテヽ逃腰ニナル 五、我等ノ戦闘法ハ 1 敵ノのろまニ乗ジ機敏ニ動作シテ先手ヲ打チ出来ルダケ敵ノ側面又ハ背後ニ迫ツテ銃剣デヤツツケル 初メニ大打撃ヲ食ハセテ臆病ニサセテヤレバ必勝確実 2 我等ハ敵ニ対シ銃剣ノ届ク所マデ近ヅク間ハ敵ノ軽機ヤ重火器、大砲等ノ為ニ成ルベク損害ヲ受ケナイ様ニ動作シナケレバナラヌ 3 我等ノ前進ヲ妨害スル敵ハ通常我前進方向ニ対シ側方ニ現ハレルコトガ多イカラ我等ハ側方ノ敵ヲ射撃シナガラ前方ノ攻撃目標ニ向ツテ真直ニ前進シナケレバナラヌ 4 我等ガ射撃スベキ敵ハ眼鏡デハ見エルガ分隊長以下ニハ殆ント見イナイ様ニ遮蔽シテ居ルカラ通常ダカラ我等ハ補助照準点ヲ射撃シテ敵ヲ射殺スルコトガ出来ル様ニナツテ居ナケレバナラヌ 5 歩兵ノ攻撃ハ我砲兵ノ射撃ト密接ニ連絡シナケレバナラヌダカラ我砲兵ガドン〴 〵射撃ヲ始メタラ歩兵ハ味方ノ弾デ損害ヲ受ケルコトヲ覚悟ノ上デ我砲弾ノ落チル近ク迄前進シテ突撃ヲ準備シ我砲弾ガ他ノ目標ニ移サレルヤ否ヤ敵ガマダ頭ヲ出シ切ラナイデ居ル間ニ突撃シナケレバナラヌ 6 敵ノ陣内ニ突入シタラ機敏ニ敵ノ軽機ヤ重機ヤ又ハ小銃兵ノ居ル処ヲ側面カラ取リ巻イテ銃剣突撃ヲ行ヒ同時ニ側方カラ逆襲シテ来ル敵ヲ撃退シナガラドン〴 〵前進ヲ続ケナケレバナラナイ 六、我等ノ覚悟スベキコトハ 1 敵ハムヤミニ毒瓦斯ヲ使フケレドモ装面ヲ確実ニヤレバ少シモ恐レルニハ及バナイ 2 敵ノ飛行機ハ時々低ク飛ンデ我等歩兵ヲ襲撃スルコトガアルケレドモ一瞬間デ飛ビ去ルモノテ大シテ怖イモノデハナイ 3 敵ハカナリ多クノ戦車ヲ使フケレドモ戦車カラノ射撃ハナカ〳〵アタルモノデハナイ又戦車ハ遠クガ見エナイ近眼ノ様ナモノダカラ沈着シテ勇敢ニヤレバ何デモナイ 4 コレカラノ戦闘デハ弾薬ノ補充ガ中々困難ダカラ本当ニ無駄射チヲシテハナラヌ 5 我等ハ百二十度モアル暑イ夏ヤ零下五十度ノ様ナ寒イ冬ノ日ニ何日モ連続シテ村落モナク水モナク荒原ヲ行軍シナガラ戦闘ヲシテ必ズ勝ツ元気ト技量トヲ持タネバナラヌ 6 日本ノ軍隊ニハ斃レテ後息ムトイフコトハアツテモ退却トイフコトハナイノデアル |
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