荘子


 昔、荘周夢に蝴蝶と為る。栩栩然として蝴蝶たり。自ら喩しみ志に適するかな。周たるを知らざるなり。俄にして覺むれば、則ち遽遽然として周なり。周の夢に蝴蝶と為りしか、蝴蝶の夢に周と為りしかを知らず。周と蝴蝶とは、則ち必ず分有り。此を之れ物化と謂ふ。

萩原朔太郎の『猫町』より

 私の物語は此所で終る。だが私の不思議な疑問は、此所から新しく始まって来る。支那の哲人荘子は、かつて夢に胡蝶となり、醒めて自ら怪しみ言った。夢の胡蝶が自分であるか、今の自分が自分であるかと。この一つの古い謎は、千古にわたってだれも解けない。錯覚された宇宙は、狐に化かされた人が見るのか。理智の常識する目が見るのか。そもそも形而上の実在世界は、景色の裏側にあるのか表にあるのか。だれもまた、おそらくこの謎を解答できない。

参考文献
『魔法事典』 山北 篤 監修/新紀元社



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