金貨とリンゴ


 昔、ある肉屋の子供たちは、お父さんが豚を解体しているのを見て、面白い遊びを思いつきました。みんなで屠殺ごっこをしようというのです。長男が料理人、次男が肉屋、三男が豚の役を演じることにしました。
 まず肉屋役の次男が豚役の三男を引き倒すと、包丁で喉を切り裂きました。勢いよく血しぶきが飛んで、やがて三男は死にました。料理人役の長男はその間中、血を一滴も無駄にしないように手おけで受けました。血は腸詰めを作るときに使うのです。次に次男は三男のお腹を引き裂いて内臓を取り出しました。隣では長男がその内臓をおけの中で洗いました。日頃から長男と次男は肉屋のお手伝いをしているので難なくこなせました。
 長男と次男は三男の体を解体して、腸詰めやひき肉に変えてしまいました。
 ちょうど三男の体を処理し終えた頃、市の議員が通りかかりました。長男と次男は出来上がった腸詰めを議員にごちそうしました。議員はおいしいと言って残さず食べてくれました。長男と次男は三男を殺して腸詰めにしたことを話しました。すると、議員は飛び上がるように驚いて、長男と次男を市長のところに連れていきました。そうして、ほかの議員たちも呼び寄せられて会議が開かれました。一人の議員は、
「とんでもない殺人事件だ。子供たちを死刑にするべきだ」
 と、言いました。しかし、ある議員は、
「子供は無邪気な生き物だ。悪気があってやったことではない。無罪だ」
 と、言いました。
 しばらく、議員たちの意見は二つに分かれて、かんかんがくがくの討論が戦わされました。しかし、なかなか結論が出ないので、市長に判断を仰ぐことにしました。
 市長は熟考した後、こう言いました。
「金貨とリンゴを子供たちに選ばせよう。金貨を取ったら死刑、リンゴを取ったら無罪にしよう」
 長男と次男の前に金貨とリンゴが置かれました。二人はうれしそうにリンゴを手に取りました。議員たちはほっとしました。
 長男と次男は無罪になりました。


参考文献
グリム童話から日本昔話まで38話 童話ってホントは残酷』 三浦佑之 監修/二見書房
初版 グリム童話集』(全四巻) 吉原高志 吉原素子 訳/白水社
ほか



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