九・山河屯兵舎



 渡満直後の駐屯地山河屯は、拉浜線山河屯駅から徒歩で約二十分のところにある。街は土壁造りの平屋が密集していて、店舗などはない。気候は寒々しく、独特の不気味さが漂っている。
 質素な兵舎は借家である。室内の中央に通路があり、両側にアンペラを敷き詰めた奥行き約二メートルの場所が兵隊に与えられた空間。
 外出は二人以上が一組となって行動し、小銃に実弾を携行する異様さだった。

*補足(藤本)
 「外出は二人以上が一組となって行動し、小銃に実弾を携行する異様さだった」とは、山河屯近辺の治安の悪さを如実に物語っている。もうここは平穏な内地ではないのだ。
 誰が味方で誰が敵なのか皆目見当がつかない土地、それが大陸である。

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