五・高田駅構内〜兄・仁作と生涯最後の別れのところ



 高田駅前広場には出征兵士を見送る市民が埋め尽くし、連隊長儀我大佐の訓示と高田市長のあいさつがおこなわれた。
 万歳の声に背中を押されて駅構内に入ると、市民代表、兵隊の親族の見送りで大混乱だった。人混みをかき分けると、兄・仁作が私の方にやってきて、感激の握手を交わした。それが生涯の別れになろうとは、このとき、思いもしなかった。
 軍用列車は打ち振る日の丸と万歳歓呼に送られて高田駅を後にした。
 目指すは一路新潟港。

*補足(藤本)
 内地に帰還したときには、すでにお兄さんの仁作さんは病死していたという。最後の別れが晴れの出征姿と感動的ではあるものの、悲しい思い出でしかない。死に際に立ち会えなかった悔しさは、石坂准尉の心を悩ましているに違いない。
 この話をしてくれた時の伏し目がちな石坂准尉の横顔を、私は決して忘れない。

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