歩兵第三十連隊出動後の概況 (『偕行社記事』〈第六百八十七号〉より)


題名
偕行社記事
著者

出版
偕行社

昭和六年十二月三日印刷
昭和六年十二月五日発行
備考
第六百八十七号(昭和六年十二月)


歩兵第三十連隊出動後の概況

歩兵第三十連隊

吉林占領 九月十八日夜半 突如旅順駅を出発して以来、懸軍長駆、二十一日夕既に吉林省の首都吉林城を占領した。即ち二十一日午後七時吉林駅に到着するや果敢迅速なる行動をなし連隊(第二大隊欠)は直ちに城内に向つて前進し、午後八時頃完全に城内各要点並重要建築物等を悉く占領し或は之を監視することになした。

我軍の入城 するや居留民殊に領事館に避難せる邦人の老若男女は、歓喜雀躍感極りて為す所を知らなかつた有様であつた。支那人も亦我軍を歓迎し恭順和平表面頗る平穏の状態である。
 然れ共連隊は僅に歩兵一大隊なるを以て戦備を厳にして極力敵情地形を偵察すると共に、支那軍隊の武装解除、兵器の押収に努め、二十三日正午頃迄には概ね城内各官庁、主要銀行、兵営、電信所、水道局等を占領し、多数の兵器、弾薬、糧秣、被服、自動車、秘密書類等を押収した。遁走せる支那兵は吉林の周囲に四散し或は匪賊に、或は土民と化し其状況詳ではない。茲に於て僅少の兵員を以て城内(周囲概ね三里余)の守備に任ずるの外多数の将校斥候を付近に派遣しあるの状況にて将士皆不眠不休、超人間的活動を継続しつゝあつて其労苦は筆紙に尽し難いものがある。

治安の維持 是より先連隊長は城内警備司令として各隊を指揮し警備に任ずると共に公安局長を指揮して治安の維持に任じつゝある。

敦化へ向け出発 第二大隊は榎本中佐之を指揮して二十二日正午吉林を発し敦化に向ふ、敦化は吉林を距る東南方約二十五里吉敦線の終点にして土民の対日感情憂ふべきものがある。之が為居留民の保護のため派遣せるものであつて途中蛟河に一泊し該地に草間小隊を残置し、翌二十三日午前十一時三十分敦化に到着、該地を占領した、是より先在支那軍隊は吉林省政府の命に依り逃走し市内は極めて平穏であつた。
 超えて二十四日に至り第三旅団司令部及歩兵第四連隊の長春に集結するに当り当連隊は一時僅に一大隊を以て吉林省城の内外に亙る広大なる地域を守備することになつたが、翌二十五日歩兵第十六連隊の到着するに至り旧に復すると共に又市内も平穏に帰しつゝありしを以て兵力を集結し敵情地形の偵察傍ら冬営の準備に忙殺さるゝことゝなつた。

将士一同の感情 管内各位より熱誠溢るゝ祝辞並激励の電報を賜はり将士一同感激惜く能はざるものがある。必ず各位の御期待に沿ふの覚悟を以て頗る士気旺盛に一意其任務に邁進しつゝあるの状態である。



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