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| 表紙 |
| 題名 |
軍用鳩ニ関スル参考書 |
| 著者 |
軍用鳩調査委員 |
| 出版 |
＊ |
| 版 |
昭和四年七月 |
| 備考 |
＊ |
| 陸普第三六九六号 軍用鳩ニ関スル参考書配布ノ件陸軍関係部隊ヘ通牒 昭和四年八月六日 陸軍省副官 松浦淳六郎 首題ノ参考書依命配布ス ＊＊＊ 本書ハ現在軍用鳩調査委員ニ於ケル修業員ノ教育資料ニシテ各隊教育上ノ参考ニ資セントスルモノナリ 昭和四年七月 軍用鳩調査委員長 杉山 元 ＊＊＊ 軍用鳩ニ関スル参考書目次 第一篇 総則 第二篇 管理及訓練 第一章 通則 第二章 管理 第三章 訓練 第三篇 通信 第一章 通則 第二章 通信網ノ構成 第三章 通信所勤務 第四章 鳩哨勤務 第四篇 用法 第一章 通則 第二章 軍ノ集中及前進間 第三章 戦闘間 第一節 攻撃 第二節 防御 第三節 追撃及退却 第四節 陣地戦 第四章 海上輸送及上陸作戦 第五章 後方管区及要塞 第五篇 教練 第一章 通則 第二章 分隊教練 第三章 小隊教練 ＊＊＊ 第一篇 総則 第一 本書ハ鳩隊ノ運用並之ニ必要ナル各種事項ヲ記述シ鳩使用法ノ準則ヲ示スモノトス 第二 鳩ハ生来愛巣ノ念ニ富ミ方向ノ判別力並飛翔力卓越ス 鳩通信ハ此天賦ノ特性ヲ利用シ他ノ通信手段欠如シ又ハ不確実ナル場合ニ於テ之ヲ使用スルヲ本則トス然レトモ緊要ナル通信ヲ行フニ方リテハ他ノ通信ト併用スルコトアリ 第三 鳩ハ使用上左ノ四種ニ区分ス 一、鳩舎鳩（コヤバト） 鳩舎（ハトゴヤ）ニ棲息スルモノニシテ移動性ヲ有セス通常昼間片途通信ニ使用ス 二、鳩車（クルマバト） 鳩車（ハトグルマ）ニ棲息スルモノニシテ移動性ヲ有シ通常昼間片途通信ニ使用ス 三、往復鳩（オホフクバト） 鳩舎或ハ鳩車鳩ニ特別ノ訓練ヲ施シ棲息鳩舎（車）ト食事鳩舎（車）間ヲ往復セシムルモノニシテ日々定時刻ニ通常雄雌各一乃至二回往復通信ヲ実施セシメ得ルモノトス 四、夜鳩（ヨバト） 鳩舎鳩或ハ鳩車鳩ニ特別ノ訓練ヲ施シ夜間ノ通信ニ使用スルモノニシテ昼間ハ通常鳩舎（車）内ニ在リテ休息セシム 第四 通信距離ハ鳩ノ良否天候地形並訓練ノ度等ニ依リテ著シク変化シ一定シ能ハサルモ中等鳩ニ在リテハ概ネ左記程度迄能力ヲ発揮セシムルコトヲ得 一、鳩舎鳩 当歳鳩ニ在リテハ約百粁、二歳鳩ニ在リテハ約二百粁、三歳以上ノ鳩ニ在リテハ約三百粁 二、鳩車鳩 生地ニ於ケル訓練順調ナル場合ニ於テハ移動後約一日ニシテ五粁約三日ニシテ二十粁 三、往復鳩及夜鳩 各約五十粁 第五 鳩ノ通信速度ハ鳩ノ良否天候等ニ依リ差異アルモ善ク訓練セラレタル鳩ハ天気晴朗無風ノ場合ニ於テ一分間概ネ一粁トス 第六 鳩及器材ノ補給ハ困難ナルヲ以テ幹部及兵卒ハ常ニ之ヲ尊重愛護シ其取扱ヲ適切ニシ使用ニ当リ遺憾ナカラシムルヲ要ス 第二篇 管理及訓練 第一章 通則 第七 鳩ノ天賦ノ特性ハ管理訓練ニ依リ益々啓発助長セラルルモノトス 第八 鳩ハ性質温順怜悧ニシテ慣レ易キモ頗ル敏感ニシテ恐怖シ易シ故ニ鳩ニ接スルニハ温和ヲ以テ第一トス 第九 鳩ノ飼育者ハ鳩ノ禀性及体質特ニ個性ヲ熟知スルコト緊要ナリ 第十 鳩ハ多数群居スルヲ以テ特ニ衛生ニ注意シ疾病ヲ未然ニ防キ殊ニ伝染病ニ対シ細心ノ顧慮ヲ必要トス 第二章 管理 第十一 管理ノ要訣ハ鳩体ヲ保全シ且蕃殖ヲ図リ以テ鳩ヲ整備スルニ在リ 第十二 鳩ヲ飼育スルニハ鳩ニ飼育者及鳩舎（車）ニ対シ親和安住ノ念ヲ与ヘ以テ旺盛ナル帰巣心ヲ養成シ併セテ鳩体ノ保健及体力ノ増進ヲ図ルヲ要ス 第十三 飼育者及鳩舎（車）ニ対スル親和安住ノ念ヲ与フルニハ飼育者ハ屢鳩ニ接スルコトニ努メ又単ニ鳩ヲシテ雌雄同棲シ又ハ抱卵育雛ノ本能ヲ満足セシムルノミナラス採食休養ヲ十分ナラシメ且秩序正シク群居生活ヲ営マシムルト共ニ害獣其他ノ危害ニ対シ完全ナル防護ノ手段ヲ講スルコト必要ナリ 第十四 鳩体ノ保健及体力ノ増進ヲ図ルニハ鳩舎（車）ノ清潔採光及換気ヲ十分ナラシメ飼料ノ精選分配並飲水ニ注意シ適時水浴ヲ行ハシメ且運動飛翔ヲ励行スルコト肝要ナリ 第十五 飼料トシテ適当ナル品種配合及日量概ネ左ノ如シ
其他塩、野菜小砂利石灰質ヲ適宜与フルモノトス 第十六 蕃殖ハ鳩舎ニ於テ行フヲ本則トスルモ必要ニ依リ鳩車ニ於テ行フコトヲ得而シテ其育雛ハ毎年概ネ三回以内ヲ適当トス 第十七 鳩ハ其数ノ点検困難ナルノミナラス増減頻繁ナルヲ以テ常ニ其異動ヲ明確ニスルコト緊要ナリ 第三章 訓練 第十八 訓練ノ目的ハ鳩ノ能力ヲ保持増進セシムルニ在リ 第十九 訓練ハ鳩ノ素質及用途ニ応シ其方法ヲ異ニスト雖其実施ニ方リテハ概ネ馴致運動飛翔及放鳩訓練ヲ行フモノトス 第二十 馴致ハ鳩ヲシテ鳩舎（車）飼育者並付近ノ地形ニ馴レシムル為行フモノニシテ其遅速並良否ハ爾後ノ訓練ニ大ナル影響ヲ及スモノトス 新鳩舎（車）ニ対スル馴致ハ生後四、五週間ノ若鳩（ワカバト）ニ在リテハ概ネ二、三日ヲ以テ足レリトスルモ成鳩（セイキウ）ニ在リテハ尚多クノ日数ヲ要スルモノトス 馴致ノ為行フ最初ノ出舎（車）ハ最モ慎重ニ行フヘキモノニシテ時刻ノ選定空腹ノ利用及鳩数ノ区分等特別ナル考慮ヲ要ス 第二十一 馴致ヲ終ラハ通常運動飛翔ヲ行ハシメ次テ放鳩訓練ニ移ルモノトス 若鳩ニ在リテハ生後概ネ二、三月ニシテ放鳩訓練ヲ開始シ得ルニ至ルモノトス 第二十二 運動飛翔ハ主トシテ健康ヲ保持シ体力ヲ増進スル為行フモノニシテ已ムヲ得サル場合ノ外日々規則正シク励行シ通常一日ニ二乃至三回行ヒ其時間ハ漸進的ニ増加シ一日ヲ通シ概ネ二時間乃至二時間半ニ達セシムルモノトス 鳩ハ昼間運動セシムルヲ通常トスルモ通信ノ実施ヲ顧慮シ払暁及薄暮ニ於テモ之ヲ行ヒ又用途ニ応シ夜間ニ於テモ之ヲ行フコトアリ 第二十三 放鳩訓練ハ鳩ノ帰巣能力ヲ発達練磨セシムル為極メテ重要ナルモノニシテ鳩ヲ某地ニ運搬シ鳩舎（車）ニ向ヒテ帰還飛翔セシムルモノトス 能力ヲ検定シ又ハ淘汰ヲ行フ為ニモ放鳩訓練ヲ行フモノトス 放鳩訓練ハ通常将来使用スヘキ方向ヲ顧慮シ逐次距離ヲ延伸シツゝ行フモノニシテ躍進距離ハ状況特ニ地形鳩ノ良否等ニ依リ適宜決定スヘキモノトス 放鳩ノ回数ハ状況ニ依リ決定スヘシト雖同一鳩ニ対シ一日三回以上実施スルハ鳩ヲ過労セシムル処アルヲ以テ成ルヘク避クルヲ可トス 放鳩ハ一羽宛行フヲ通常トスルモ時宜ニ依リ二羽以上集団ニテ行フコトアリ 其他訓練ノ実施ニ方リテハ放鳩スヘキ鳩ノ選定、運搬法、放鳩ノ時機並地点ノ選定及放鳩法ニ注意シ且成績ノ記録ヲ確実ナラシムルヲ要ス 第二十四 鳩舎ニ善ク馴致セラレタル鳩ヲ以テ百乃至三百粁ヲ訓練スルニハ天候順調地形平易ナル場合ニ於テ概ネ二十日乃至三十日ヲ要スルモノトス 第二十五 鳩車鳩ニ対シテハ移動性ヲ付与スル為特ニ移動訓練ヲ行フモノトス 移動訓練ハ鳩ヲシテ鳩車ノ移動ヲ自覚セシメ且旧位置ニ執着セサル如ク屢ゝ鳩車ヲ生地ニ移動シ一移動毎ニ通常馴致、運動飛翔及放鳩訓練ヲ行フモノトス 第二十六 鳩車鳩ニ対シテハ移動訓練ヲ行フ外戦場ニ於テ遭遇スヘキ諸種ノ状況ニ適応スル如ク特殊ノ訓練ヲ施スヘキモノトス 第二十七 鳩車鳩失踪ノ原因ハ移動性ノ不十分ニ基クコト多キヲ以テ之カ付与並保持ニ関シ特ニ留意スルコト肝要ナリ 已ニ移動性ヲ付与セラレタル鳩車鳩ト雖一地ニ固定スルニ従ヒ漸次移動性ヲ失フニ至ルモノトス故ニ之カ保持ノ為ニハ適時移動訓練ヲ反復スルカ若ハ鳩車ニ目隠シヲ施シ周囲ノ地形ヲ認識セシメサル等特種ノ手段方法ヲ講スヘキモノトス 第二十八 往復鳩ノ訓練ハ鳩ノ本能ヲ利用シ鳩ニ棲息所ト食事所トヲ異ニスルノ習慣ヲ付与シ日々棲息及採食ノ為一箇ノ棲息鳩舎（車）ト一箇若ハ二箇以上ノ食事鳩舎（車）間ヲ往復セシムルモノトス之カ為已ニ配合セル鳩或ハ鳩車鳩ヲ使用スルトキハ訓練容易ニシテ又鳩車鳩ニ在リテハ爾後棲息所食事所ノ移動ニ便ナリ 第二十九 夜鳩ヲ訓練スルニハ薄暮飛翔ノ成績優秀ナル鳩舎（車）鳩ヲ選抜スルヲ通常トス 運動飛翔ハ払暁及薄暮ニ於テ励行シ漸次夜間ニ移ルモノトシ放鳩訓練ハ先ツ昼間ニ於テ行ヒ夜間飛翔ヲ開始スルニ至ラハ昼夜併セ行フモノトス 第三十 一地ニ永ク棲息シ善ク訓練セラレタル鳩舎鳩ト雖長時日閉置（鳩ヲ某地ニ於テ若干時日籠又ハ他ノ鳩舎（車）ニ留メ置クコト）スルトキハ帰巣能力ヲ低下スルモノニシテ殊ニ頻繁ニ移動シ訓練十分ナラサル鳩車鳩ニ在リテハ短時日ノ閉置ト雖帰巣能力ヲ阻害スルコト大ナリ故ニ鳩ヲシテ閉置ニ慣レ帰巣能力ヲ低下セシメサル為閉置訓練ヲ行フコト必要ナリ 閉置訓練ニ於ケル閉置ノ時日及距離ハ漸進的ニ増加スルモノトス 通信ヲ主トスル鳩舎（車）鳩ニ対シテハ各用途ニ応スル閉置訓練ヲ実施シテ訓練ヲ完結スルヲ通常トス 第三篇 通信 第一章 通則 第三十一 鳩通信ハ砲弾又ハ瓦斯等ノ為他ノ通信機関其用ヲナサゝルトキニ於テモ猶使用スルコトヲ得ルノミナラス使用簡易ニシテ任意ノ地点ヨリ発信スルコトヲ得又有利ナル秘密的通信法ナリ特ニ軽量ナル要図写真等ヲ送達スルニ最モ便ナリ 第三十二 鳩通信ヲ実施スルニ方リテハ鳩数ニ制限アルコトヲ顧慮シ之カ濫用ヲ慎ミ緊要ナル時機ニ於ケル活用ニ努メサルヘカラス 第三十三 鳩通信ハ通常鳩通信紙ニ記載シ信書管要スレハ信書嚢ヲ用ヒ鳩ニ託スルモノトス 重要ナル通信ハ二羽以上ニ託シ各別ニ放鳩シ要スレハ暗号ヲ使用ス特ニ我カ旧鳩車位置ニ敵兵ノ占位セル処アル場合ニ於テ然リトス 鳩通信ニ於テハ前通信ノ要旨ヲ付記スルヲ利トスルコトアリ 第三十四 通信ニ任スル鳩舎（車）位置ヲ鳩通信所ト称シ鳩舎（車）ヨリ鳩ノ分配ヲ受ケ鳩通信ノ発送ニ任スルモノヲ鳩哨（ハトセウ）ト称ス 第三十五 通信ノ方向及距離訓練ノ場合ト一致セシトキニ於テ通信能力ヲ発揮スルコト最モ大ナリ而シテ一致セサルトキニ在リテモ善ク訓練セラレタルモノハ鳩舎鳩ニ在リテハ概ネ五十粁以内ニ於テ殆ント影響ナク又鳩車鳩ニ在リテモ概ネ五粁以内ニ於テハ大ナル影響ナキモノトス 第三十六 生地ニ対スル馴致完了セハ鳩車ニ遮蔽ヲ施スモ之ニ馴致シタル場合ニハ帰巣能力ニ大ナル影響ナシ 一時他ニ鳩車ヲ移動スルモ之ヲ旧位ニ復シタル場合亦同シ然レトモ鳩車ヲ移動シ旧位ニ復セサル場合ニ在リテハ距離ノ増大ト共ニ帰巣能力ヲ減殺スルモノトス 第三十七 鳩ヲ閉置シ得ヘキ期間ハ閉置訓練ノ度鳩ノ状態、鳩哨服務回数及閉置方法等ニ依リ差異アルモ鳩舎鳩ニシテ善ク訓練セラレ其方法宜シキヲ得ハ五、六十日ニ亘リ閉置シ得ルコトアリ然レトモ鳩車鳩ニシテ訓練時日未タ大ナラサル場合ニ於テハ努メテ閉置期間ヲ短少ナラシムルヲ要シ相当馴致セルモノニ在リテモ三昼夜以上閉置セサルヲ可トス 第三十八 鳩通信所ハ鳩ノ訓練及帰巣ニ便ニシテ成ルヘク遮蔽シ且所属指揮官トノ連絡容易ナル位置ニ選定スルヲ要ス然レトモ之カ為司令部等ノ位置ヲ推知セラレサル如ク注意スルコト肝要ナリ 鳩通信所ハ軍隊一般ノ部署ニ依リ自然ニ援護セラルゝヲ通常トスト雖敵襲ニ際シテハ自ラ之ニ処スルノ覚悟アルヲ要ス 鳩通信所ハ状況之ヲ許セハ自然ノ地障又ハ障害物等ニ依リテ援護セラルゝ外其位置ヲ他部隊又ハ本部位置ニ近接セシメ以テ其警戒ヲ確実ナラシムルヲ要ス之カ為要スレハ夜間鳩車位置ヲ移動シ払暁前ニ於テ旧位置ニ復スルヲ可トスルコトアリ 第三十九 鳩哨ハ通常籠又ハ箱ニ若干ノ鳩ヲ収容シ所要ノ器材及飼料ト共ニ之ヲ携行スルモノニシテ一鳩哨ニ要スル鳩数及器材ノ種類員数概ネ左ノ如シ
第二章 通信網ノ構成 第四十 鳩通信網ハ戦況ノ変遷ニ応シ屢ゝ通信所ヲ移動スルコト困難ニシテ鳩哨ニ於ケル鳩数ハ通信毎ニ減少スルヲ以テ通信所ノ配置ヲ適切ナラシムルト共ニ常ニ受信文速達ノ機関ヲ整備シ且予メ鳩補給ノ難易ヲ顧慮シテ鳩哨ニ於ケル充当鳩数ヲ決定シ以テ通信網設置後ニ於ケル通信業務ノ順調ナル進捗ヲ図ルコト最モ緊要ナリ 第四十一 鳩通信所ノ移動ハ之ヲ慎重ニ行ヒ頻次ノ移動ヲ避ケ一地ニ於テ為シ得ル限リ通信距離ノ延伸ヲ図ルヲ要ス蓋シ小距離ノ移動ハ新位置ニ対スル馴致ヲ困難ナラシムレハナリ 第四十二 鳩部隊ノ長ハ将来ノ使用ヲ顧慮シ所属指揮官及関係アル他ノ通信部隊長ト緊密ナル連絡ヲ保持シ一般ノ状況ヲ洞察シ速ニ指揮官ノ企図並他通信機関ノ状況ヲ明ニシ以テ鳩通信ノ利用ヲ適切ナラシムルコト肝要ナリ 第四十三 師団長ハ師団通信隊長（鳩小隊ヲ属セラレタル場合以下同シ）ニ対シ時機ヲ失セス鳩通信所概略ノ位置並訓練上必要ナル大綱ヲ示スヲ要ス 第四十四 師団通信隊長又ハ鳩小隊（分隊）ノ配属ヲ受ケタル指揮官ハ鳩小隊（分隊）ニ訓練計画ノ準縄トナルヘキ左記事項ヲ命スルモノトス 一、他ノ通信網ノ景況 二、通信所ノ予定位置 三、所望スル通信方向及地域並各方向ニ使用スヘキ鳩数ノ比率 四、訓練ノ終了若ハ通信開始ノ時刻 五、鳩通信所選定ニ関シ参考トナルヘキ事項（例ヘハ道路地形ノ概要等） 六、指揮官若ハ情報収集所ノ位置為シ得レハ此等トノ連絡法 然レトモ先ツ通信所概略ノ位置並訓練上必要ナル大綱ヲ示スニ止ムルヲ有利トスル場合少カラス 第四十五 小隊長（分隊長）ハ前項ノ命令ニ基キ速ニ通信所ノ位置ヲ偵察シテ進入路、進入ノ方法、進入ノ時機要スレハ車廠、馬繋場及連絡方法等ヲ決定シ鳩車並所要ノ人員器材ヲ該位置ニ派遣シ訓練ヲ実施ス 時トシテ小隊長ハ各分隊ヲシテ先ツ鳩車予定位置ニ分進セシメタル後逐次其位置ニ至リ詳細ナル命令ヲ下スヲ可トスルコトアリ 第四十六 師団通信隊長又ハ鳩小隊（分隊）ノ配属ヲ受ケタル指揮官ハ適時鳩哨配置ニ関シ概ネ左記事項ヲ命令スルモノトス 一、鳩哨ヲ配属スル部隊 二、鳩取扱ニ任スル人員及充当鳩数 三、鳩及器材交付場所及時刻為シ得レハ爾後ニ於ケル補給ノ方法 鳩小隊長（分隊長）ハ右ノ命令ニ基キ鳩通信所勤務、鳩及器材ノ差出等細部ニ関スル命令ヲ下スモノトス 第四十七 鳩哨ノ数及配置ハ左ノ諸件ヲ顧慮シテ之ヲ決定ス 一、鳩通信ノ要度 二、一般通信網ノ景況 三、使用シ得ル鳩数及其訓練程度 四、使用期間ノ長短及補給ノ難易 鳩通信ノ実施長キニ亘ルトキハ総数ノ三分ノ一ヲ使用シ他ノ三分ノ二ハ休憩及補給ニ充ツルヲ要ス 第四十八 鳩及器材ノ交付ハ鳩哨配属ノ為ニハ通常通信所ニ於テ行フト雖、爾後ニ於ケル補給ハ状況ニ依リ鳩哨或ハ前進交付所若ハ通信所ニ於テ行フモノトス而シテ前進交付所ハ鳩哨ニ近ク交通容易ナル地点ニ設クルヲ可トス 交付ノ時機ハ通常昼間ニ於テ行フヲ可トスルモ状況ニ依リ夜間ヲ利用スルコトアリ 第三章 通信所勤務 第四十九 通信所ノ所名ハ通常地名若ハ配属部隊等ノ名称ヲ冠シ其地鳩通信所若ハ其隊鳩通信所ト称ス 第五十 通信所ニハ所長、通信勤務員、鳩車（舎）勤務員、鳩哨勤務員及伝令ヲ置キ之ニ鳩車器材輸送ニ任スル人馬車輌ヲ配属ス 第五十一 所長ハ通常分隊長之ニ任スト雖状況ニ依リ小隊長之ニ任スルコトアリ 所長ハ配属人馬ヲ指揮シ鳩ノ管理訓練鳩哨ノ交付補給及通信伝達ノ責ニ任ス 第五十二 所長ハ通信所ヲ開設セハ速ニ所属指揮官ニ報告シ且必要ナル関係各部隊長ニ通報スルヲ要ス 第五十三 所長ハ通信所開設後速ニ馴致並放鳩訓練ニ関スル事項ヲ計画シ所要ノ人員ニ之カ実施ヲ命ス 第五十四 放鳩訓練ヲ終リ通信ヲ開始シ得ルニ至レハ直ニ所属指揮官ニ報告シ服務スヘキ鳩、所要器材及人員等ヲ区分シ鳩哨配属ノ準備ヲ為スモノトス 又状況急ヲ要スルカ如キ場合等ヲ顧慮シ訓練中ト雖常ニ鳩哨配属ノ準備ヲ整ヘ置クト共ニ其訓練ノ進度ハ常ニ所属指揮官ニ報告スルヲ要ス 第五十五 所長ハ鳩哨派遣ニ際シ特ニ其通信方向、距離及鳩ヲ閉置シ得ヘキ時間ノ限度ヲ明示スルコト必要ナリ 第五十六 所長ハ通信ニ使用シ得ヘキ鳩ノ現数ヲ時々調査シテ之ヲ所属指揮官ニ報告スルヲ要ス 第五十七 通信開始後ト雖訓練未了鳩、成績不良ノ鳩及失踪後帰還セル鳩ニ対シ補足訓練ヲ行ヒ又新ニ補充ヲ受ケタル鳩ニ対シテハ成ルヘク速ニ馴致並放鳩訓練ヲ行ヒ以テ爾後ノ用途ニ応シ得ル如クスルコト肝要ナリ 第五十八 鳩通信ヲ受信人ニ伝達スルニハ其通信所々属ノ伝令ヲ以テ行フモノトス 特ニ通信ノ伝達急ヲ要スル場合ニ於テハ為シ得レハ先ツ電話又ハ電信ヲ以テ之ヲ伝達シ後適時本文ヲ送達スルモノトス之カ為最寄電信電話通信所ニ之カ伝達ヲ依託スルコトヲ得「但電信部隊ノ電信所ニ依託スル場合ハ陸軍々用電報規則ニ依リ賴信スルモノトス」鳩通信ノ伝達ヲ依託セラレタル電信電話通信所ノ伝送ハ高級指揮官ノ定ムルトコロニ依ルモノトス 第五十九 所長ハ通信ノ景況ニ応シ適時鳩ヲ補給シ或ハ不用トナリタルモノヲ回収シ以テ通信ノ実施ヲ円滑ナラシムルヲ要ス 第六十 通信所ノ閉鎖ニ方リテハ所属指揮官及鳩哨配属部隊長ニ閉鎖時刻ヲ予報シテ放鳩時刻ヲ限定シ鳩哨、器材ノ返送ヲ請求スルモノトス 第六十一 人馬ノ給与ハ所属部隊ト遠隔シアルトキハ最寄部隊ヨリ受ケ診断治療及装蹄ハ配属部隊若ハ最寄部隊ヨリ受クルモノトス 鳩及飼料ノ補充ハ小隊長若ハ師団通信隊長ニ請求スルモノトス 第六十二 業務上警戒護衛若ハ援助ヲ要スルトキハ所長ハ之ヲ所属指揮官ニ具申シ若急ヲ要スルトキハ其地高級先任ノ指揮官ニ申出ツルモノトス 第四章 鳩哨勤務 第六十三 鳩哨ノ称呼ハ通常配属部隊号ヲ冠シ同一通信所ノモノ二個以上ニ及フトキハ一連番号ヲ付スルモノトス 通信所ヲ異ニスルモノ同一部隊ニ配属セラレタル場合ハ更ニ通信所名ヲ冠スルモノトス 第六十四 鳩取扱兵ハ鳩ノ配属ヲ受ケタル部隊ヨリ服務セシムルヲ本則トスルモ其内一ハ成ルヘク鳩部隊ヨリ出務セシムルヲ可トス 第六十五 鳩取扱兵ハ鳩哨ニ於ケル鳩及器材ノ受領、取扱、返納等ヲ掌リ特ニ補給ノ時機ヲ失セシメサル為時々鳩ノ現数ヲ配属部隊長ニ報告スルモノトス 第六十六 通信ハ発信者自ラ調製スルヲ本則トス而シテ通常二通ヲ調製シ一通ヲ鳩取扱兵ニ交付スルモノトス 第六十七 鳩通信ヲ更ニ電信ニ依リ転送スルノ必要ヲ予知スル場合ニ於テハ発信者ハ電報賴信ノ要領ニ依リ通信文ヲ記載スルモノトス但電信部隊ノ電信所ヲ経由スルモノニ在リテハ以上ノ外陸軍々用電報規則ニ依リ電報ノ種類及発信権ヲ表示スルニ足ルヘキ職官氏名等ヲ付記スルヲ要ス 第六十八 放鳩位置ハ概ネ左記事項ヲ顧慮シ選定スルモノトス 一、敵ト近ク対峙スル場合ニ在リテハ放鳩者ノ位置ヲ敵ニ秘匿スル為放鳩ノ都度其位置ヲ変更スルコト 二、飛翔ノ際鳩ヲ損傷スヘキ処アル電線等ノ付近ヲ避クルコト 三、状況之ヲ許セハ鳩車（舎）方向ニ対シ成ルヘク地形開濶ナルコト 第四篇 用法 第一章 通則 第六十九 軍司令官ハ作戦上ノ必要ニ基キ部下兵団ニ鳩小隊若ハ分隊ヲ配属ス然レトモ状況ニ依リ自己直接ノ使用ニ供スル為又ハ予備トシテ若干分隊ヲ控置スルヲ可トスルコトアリ 第七十 師団及鳩小隊又ハ分隊ノ配属ヲ受ケタル各兵団ハ通常部下諸部隊ニ鳩哨ヲ配属ス時トシテハ某部隊ニ分隊ヲ配属スルヲ可トスルコトアリ 各部隊ニ鳩ヲ配属スヘキ時機ノ決定ニ関シテハ最モ慎重ナル考慮ヲ要スルモノニシテ勉メテ之ヲ手裏ニ掌握シ要スレハ一部又ハ鳩哨ヲ緊要已ムヲ得サル方面ニ派遣スルニ止メ以テ濫用ヲ戒メ経済的使用ヲ図ルヲ要ス然レトモ必要ニ際シテハ適時之ヲ配属シ以テ活用ノ機ヲ失セサルコト肝要ナリ 第七十一 鳩通信ヲ使用スヘキ時期ノ選定ニハ特ニ注意ヲ要シ緊要ナル時機ニ於ケル利用ニ遺憾ナカラシムルヲ要ス戦闘ノ経過及戦場ノ転移迅速ナル運動戦ニ於テ特ニ然リトス 第七十二 状況急ヲ要シ躍進距離大ニシテ且道路良好ナル場合ニ於テハ自動車等ヲ以テ鳩車ヲ牽引セシムルヲ必要トスルコトアリ 第七十三 運動戦ニ在リテハ戦況ノ推移ヲ予察シ援護ノ許ス限リ諸種ノ手段ヲ尽シテ鳩車ヲ成ルヘク速ニ前方ニ配置スルノ処置ヲ講スヘシ然レトモ鳩車ノ推進急ニシテ鳩通信利用ノ機会ヲ逸セサルノ着意ヲ要ス状況ニ依リ最初ヨリ一部ヲ後方ニ位置セシメ先ツ速ニ通信ヲ開始スルヲ有利トスルコトアリ 第七十四 鳩小隊（分隊）ノ配属ヲ受ケタル部隊長通信網ヲ設置セハ時機ヲ失セス其配置ヲ所属指揮官ニ報告シ且必要ナル関係各部隊長ニ通報スルヲ要ス鳩通信所ヲ撤収シ又ハ移動シ或ハ鳩哨ヲ撤収セルトキ亦同シ 第七十五 鳩哨ノ配属ヲ受ケタル各部隊長ハ鳩ノ使用計画ヲ定メ以テ鳩通信ノ利用ヲ適切ニシ鳩ノ補給ニ関シ適時之ヲ通信所長ニ要求シ且不要トナリタル鳩哨ハ速ニ通信所ニ復帰セシムヘシ鳩哨ノ配属ヲ受ケタル諸部隊長ハ要スレハ更ニ之ヲ第一線部隊斥候又ハ連絡将校等ニ配属ス 第七十六 鳩部隊ヲ有スル指揮官ハ鳩通信ノ速達ヲ図ル為要スレハ特ニ電話網ヲ構成シ又ハ伝令等ヲ配属スヘキモノトス 第七十七 比隣部隊長相互間ニ派遣セラルヘキ連絡将校ハ鳩ノ携行ニ依リ当該部隊長ノ指揮用通信機関ヲ妨害スルコトナク通信ノ速達ヲ期シ得ルコトアリ又敵線内ニ潜入シ諸偵察ニ任スヘキ斥候若ハ小部隊ノ為鳩通信ハ偉大ナル価値ヲ有スルモノトス 第七十八 鳩車鳩及鳩舎鳩ハ後方ヨリ補充ヲ受クルヲ本則トス然レトモ鳩舎鳩ニ在リテハ通信実施ニ支障ナキ限リ鳩舎ニ於テ自ラ蕃殖セシムルコト肝要ナリ 第二章 軍ノ集中及前進間 第七十九 軍ノ集中間集中ノ援護ニ任スル団隊及独立シテ遠ク捜索ニ従事スル騎兵及飛行隊ニハ小隊又ハ分隊ヲ配属スルコト必要ナリ而シテ此等小隊又ハ分隊ハ主トシテ配属セラレタル団隊自己ノ通信ニ使用シ後方ニ在ル主力トノ通信連絡ノ為ニハ必要ニ応シ別ニ鳩哨ノ配置ヲ要スルモノトス 第八十 鳩部隊集中地ニ到着セハ通信実施ノ任務ニ服スヘキモノト然ラサルモノトヲ論セス成ルヘク速ニ全鳩車ノ訓練ヲ開始シ作戦地ノ地形風土等ニ慣熟セシムルコト必要ナリ 第八十一 軍ノ前進間ニ在リテハ鳩通信準備ノ為訓練ニ要スル時日ノ余裕ヲ有セサルヲ通常トスルヲ以テ鳩通信ハ勉メテ之ヲ避クルヲ要ス然レトモ時トシテ既ニ通信ヲ開始セル鳩車ノ一部ヲ旧位置ニ停止セシメテ通信ヲ続行セシムルコトアリ此場合ニ於テハ到着セル通信文ヲ機ヲ失セス転送シ得ヘキ処置ヲ講シ置クコト必要ナリ 第八十二 軍ノ前進間ニ在リテハ軍直轄鳩部隊ハ他ニ其必要ナケレハ之ヲ先任部隊長ノ指揮ノ下ニ某一兵団ト共ニ行動セシムルモノトス而シテ軍カ兵団ヲ重畳シテ行軍スル場合ニ於テハ成ルヘク前方兵団ニ置キ通信実施ニ至ルマテニ成ルヘク多クノ時日ヲ得シムルコトニ勉ムヘシ 第八十三 軍ノ前進間師団及鳩部隊ノ配属ヲ受ケタル団隊モ亦第八十一、第八十二ニ準シテ鳩部隊ヲ部署スルモノトス 第三章 戦闘間 第一節 第八十四 鳩小隊長（分隊長）ハ攻撃開始前及攻撃当初使用セラルヘキ鳩哨ニ充当スヘキ鳩ニ対シ最初ニ放鳩訓練ヲ施シ以テ直ニ実用通信ニ使用シ得ル如ク準備スルモノトス 第八十五 攻撃ノ進捗ニ伴ヒ鳩通信所ヲ随時移動セシムルコトハ殆ト不可能ナリ故ニ鳩通信ヲ受理スヘキ指揮官其位置ヲ転スルコトヲ予想シ得ル場合ニ於テハ常ニ通信送達ノ為必要ナル準備ヲ整ヘ置クコト必要ナリ若此際控置鳩車ヲ有スルトキハ該指揮官ノ移転ニ先タチ予メ之ヲ配置スルヲ可トス然レトモ此ノ如キ処置ハ鳩訓練ニ要スル時間ノ余裕ヲ有スル如ク指揮官ノ新位置ヲ予定シ得ヘキ稀有ノ場合ニ限ルモノトス 第八十六 第一線タルヘキ各部隊ニ要スル鳩哨ハ必スシモ開進ノ位置ヨリ軍隊ト行動ヲ共ニスルノ必要ナク寧ロ我カ展開ヲ妨害スヘキ敵ノ砲火ヲ避ケンカ為軍隊ノ展開ニ後レテ行動セシムルヲ有利トス然レトモ遅クモ攻撃実施ニ先タチ各部隊ノ所在地ニ到着シアラシムルコト必要ナリ特ニ第一線歩兵部隊ハ其突撃前及敵陣突入後鳩通信ヲ必要トスルコト多キヲ以テ此場合ニ於ケル鳩哨ノ鳩数ヲ充足シ置クコト肝要ナリ 第八十七 第一線歩兵部隊ノ指揮官ハ屢々其位置ヲ転シ且敵火ニ遮蔽スルコト概シテ困難ナルヲ以テ第一線歩兵部隊ニ鳩車ヲ配属スルハ通常価値ナキモノトス 第八十八 砲兵指揮官ヲシテ其射撃指揮ヲ適切ナラシムル為ニハ鳩通信ヲ併用シテ其目的達成ニ資スルヲ有利トス故ニ状況之ヲ許ス場合ニ於テハ砲兵隊長ノ付近ニ鳩通信所ヲ設ケ又緊要ナル砲兵連絡将校及砲兵斥候ニ鳩哨ヲ配属スル等鳩能力ノ利用ニ勉ムルヲ可トス 第二節 防御 第八十九 防御ニ於ケル鳩ノ用法ハ概シテ攻撃ノ場合ニ同シ然レトモ攻撃ノ場合ニ比シ通常鳩訓練ノ為多クノ時日ヲ使用シ得ヘク又鳩通信所ノ移転ヲ要スルコト少キヲ以テ第一線ニ近ク鳩車ヲ配置シ得ル場合多キモノトス 第九十 警戒部隊及其前方ニ出スヘキ部隊ニハ成ルヘク多クノ鳩哨ヲ配属シ適時前方ニ於ケル状況ヲ知ルニ便ナラシムルヲ要ス又陣地前方ニ派遣セラルゝ場合ニハ鳩車ヲ配属スルヲ有利トスルコトアリ 第三節 追撃及退却 第九十一 追撃及退却ニ際シテハ各級指揮官ハ放鳩ノ時期、鳩哨ノ撤収、鳩車位置ノ移動並通信開始時期ニ注意シ以テ鳩及器材ノ散逸ヲ防止スルコト特ニ肝要ナリ 第九十二 第一線部隊追撃ニ移ルトキハ鳩車ハ現在地ニ駐止シ通信距離ノ延伸ニ勉メ高級指揮官ハ鳩及鳩哨ヲ増加セシム此際最前方ニ在ル鳩通信所ハ要スレハ独断ヲ以テ此処置ヲ行フヘキモノトス 第九十三 追撃前進ニ方リ尚控置鳩車ヲ有スル場合ニ於テハ之ヲ以テ追撃部隊ニ続行セシム此際通信ニ任シアル鳩車ハ第一線部隊追撃開始後鳩通信ノ必要ナキニ至リ初メテ前進シ得ルヲ一般トス 第九十四 退却ニ際シテハ鳩通信所ハ成ルヘク永ク現在地ニ於テ受信ニ従事シ以テ緊要ナル時機ニ於ケル通信ノ実施ニ任スルノ概アルヲ要ス然レトモ鳩小隊ヲ有スル部隊長ハ為シ得レハ一部ノ鳩車ヲ先行セシメ爾後ノ使用ヲ準備セシムルヲ可トス 第四節 陣地戦 第九十五 陣地戦ニ在リテハ攻防両者共各種通信機関ヲ使用シ通信網ノ構成ヲ巧妙確実ニシ且之カ援護ノ為諸種ノ手段ヲ尽スコトヲ得然レトモ運動戦ニ比シ敵ノ妨害破壊窃取等ニ遭ヒ易ク故障ノ程度増加スルヲ常トシ鳩通信応用ノ機会最モ多キモノトス 第九十六 陣地戦ニ在リテハ訓練ノ為多クノ時日ヲ使用シ得ルヲ以テ訓練ノ計画及実施ヲ綿密ニシ通信ヲ開始スルニ方リ通信能力確実ナル多数ノ鳩ヲ使用シ得ル如ク着意スルコト緊要ナリ 第九十七 陣地戦ニ於ケル鳩哨配置ノ要領ハ運動戦ニ於ケルト概ネ同一ナルモ他種通信ノ不意ニ断絶スル場合甚タ多キヲ以テ仮令鳩ノ必要ヲ感セサル場合ニ於テモ重要ナル箇所ニハ常ニ鳩哨ヲ派遣シ置クヲ有利トス 第九十八 陣地戦ニ在リテハ鳩通信所ハ通常運動戦ノ場合ニ比シ一層前方ニ配置シ得ルコト多キモノトス 第九十九 対陣長キニ亘ルトキハ鳩車ノ外適当ナル建築物ヲ利用シテ鳩舎ヲ設備シ鳩舎鳩ヲモ使用スルヲ有利トス又往復鳩或ハ夜鳩ヲ訓練シテ之ヲ実用ニ供スルヲ可トス 第四章 海上輸送及上陸作戦 第百 海上及海陸間ノ通信ニハ鳩ヲ利用スル場合少カラス 第百一 港湾出発後運送船ヨリ海運基地海運主他又ハ海軍望楼等ニ向テスル鳩通信ハ陸上ニ比シ通信距離ヲ増大スルコトヲ得 第百二 船内ニ於ケル鳩ノ訓練ニハ比較的多クノ時日ヲ要スト雖一度訓練ヲ経タル鳩ヲ使用スルトキハ運送船相互間及上陸開始後直ニ陸上ト錨地間ノ通信ニ使用スルコトヲ得然レトモ鳩ハ往々帰巣船舶ヲ誤認スルコトアルニ注意スルヲ要ス 第五章 後方管区及要塞 第百三 後方管区ニ於テハ鳩舎鳩ヲ使用スルヲ本則トス又往復及夜鳩ハ後方管区ニ於テ有利ニ使用セラルコトアリ 第百四 長大ナル後方連絡線ヲ要スル作戦ニ在リテハ作戦ノ進捗ニ伴ヒ鳩舎ヲ遞次ニ配置シテ通信ヲ確保スルヲ可トス居民敵意ヲ有シ屢通信線ヲ破壊セラレントスルカ如キ状況ニ於テ特ニ然リトス 第百五 後方管区ニ於ケル鳩通信所ハ主要ナル兵站地及要スレハ他ノ守備隊駐屯地等ニ於テ之ヲ設ク 第百六 要塞ニ於ケル鳩通信ノ要領ハ海陸間、島嶼間竝陸地相互間ノ三種ニ依リ差異アルモ海陸間ノ通信ハ第四章ニ其他ハ第三章第四節ノ要領ニ準ス要塞ニ於テハ特ニ鳩舎ノ援護ヲ確実ニシ要スレハ敵火ヲ顧慮シテ適宜鳩舎ヲ分置シ又要塞外部トノ連絡ヲ顧慮シテ閉置室ヲ設クル等ノ処置ヲ講シ以テ通信ノ確実ヲ期スルヲ要ス 第百七 要塞ニハ平時ヨリ鳩舎ヲ設置シ自ラ蕃殖ヲ営ミ要塞戦備ニ際シ直ニ使用シ得ル如ク訓練シ置クヲ可トス又要塞ノ位置任務ニ応シ要塞内部相互間並外部ト連絡シ得ル如ク訓練スルコト必要ナリ之カ為外部トノ往復訓練夜間訓練及閉置訓練ヲ必要トスルコト多シ 第百八 要塞ノ有スル鳩ハ要塞ト外部トノ通信及要塞内ニ於ケル通信ニ区分使用スルモノトス而シテ要塞ト外部トノ通信ハ主トシテ防備艦隊哨戒艦隊等協同スヘキ海軍トノ通信並連絡者ヲ派遣スヘキ友軍トノ通信ニ使用セラレ敵ノ為交通ヲ遮断セラレントスル時期ニ於テ特ニ其価値ヲ発揮スルモノトス 要塞内ニ於ケル通信ノ為ニハ通信一般ノ情況及軍隊区分ヲ顧慮シ各所ニ十分ナル鳩哨ヲ配属シ要スレハ一部ノ鳩舎（車）ヲ各部隊ニ配属使用スルモノトス 第五篇 教練 第一章 通則 第百九 教練ノ目的ハ幹部及兵卒ヲ訓練シテ鳩使用ノ為必要ナル制式及諸動作ニ習熟セシムルニ在リ 第百十 幹部ハ自ラ能ク鳩並器材ノ性能及其使用法ニ精通シ兵卒ヲシテ之カ点検及取扱ニ熟練セシメ尚馬事ニ通暁シ兵卒ヲシテ馬ノ使用ト愛護トヲ適切ナラシメ以テ鳩通信ノ能力ヲ十分ニ発揚セシメ鳩車ノ移動性ヲ遺憾ナク発揮セシムルヲ要ス 第百十一 幹部ハ特ニ規定セラレタル場合ノ外部下ヲ監視スル為適宜ノ位置ヲ選定スヘシ 第百十二 教練ハ諸種ノ地形ニ於テ之ヲ実施シ又屢々夜間ニ之ヲ行ヒ以テ静粛迅速ニ予期ノ配置ニ就キ且適時通信ヲ開始シ得ルニ至ラシムルヲ要ス 第百十三 繋駕脱駕ハ輜重兵操典ニ馭術ハ輜重兵馭法教範ニ拠ル 第二章 分隊教練 第百十四 分隊教練ノ目的ハ分隊長以下ヲシテ確実且敏活ニ動作シ互ニ一致協力シテ毫モ渋滞ナク鳩車及器材ヲ操作シ鳩ヲ使用スルコトニ習熟セシメ併セテ小隊教練ノ確乎タル基礎ヲ作ルニ在リ 第百十五 分隊長以下ノ動作ハ鳩ノ馴致ヲ害セサル限リ勉メテ迅速ナルヲ要シ鳩手ハ操作ノ為最モ便ナル姿勢ヲ取ルヘシト雖常ニ厳格ナル態度ヲ失フヘカラス 第百十六 分隊ハ分隊長一名、鳩手八名馭卒二名、鳩車一輌（輓馬共）及器材車一輌（輓馬共）ヨリ成リ鳩手ニハ一番ヨリ八番ニ至ル番号ヲ付ス 第百十七 分隊ノ隊形及分隊長以下ノ定位左ノ如シ
第百十八 鳩車整置ノ際ニ於ケル分隊長以下ノ定位左ノ如シ
鳩車輓馬及器材車（輓馬共）ノ位置ハ分隊長適宜之ヲ定ム 第百十九 鳩車運動ヲ行フニ方リテハ扉及抽出ヲ確実ニ閉鎖シ到着台及事務台ヲ垂下シ支桿ヲ扛起シ駐金アルモノハ総テ之ヲ確実ニ掛金ニ鉤シ鳩ハ要スレハ巣房ニ容ルゝルモノトス 第百二十 輓馬ノ行進速度ハ一分間常歩（ナミアシ）約八十六米速歩（ハヤアシ）約百四十五米トシ要スレハ之ヲ伸縮スルコトヲ得 第百二十一 直行進ヲ起サシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 前ヘ（速歩）進メ 速歩ニ在リテハ漸次ニ速歩ニ移ル 器材車ハ鳩車ニ重リ同時ニ直進ス 下士卒ハ輓馬ノ常歩ニ於テ速歩行進ヲ、速歩ニ於テ駈歩行進ヲ行フ但シ馭卒ハ歩ヲ揃フルヲ要セス 第百二十二 常（速）歩間歩度ヲ変換セシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 速（常）歩進メ 漸次所命ノ歩度ニ移ル 第百二十三 止ラシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 分隊止レ 漸次ニ止ル 第百二十四 右（左）ニ方向ヲ換ヘシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 伍々右（左）ヘ進メ 分隊長及先頭伍ハ半径約四歩ノ環形ヲ画キツゝ伍々右（左）ニ方向ヲ換ヘ新方向ニ前進シ停止間ニ在リテハ前進ヲ起スト同時ニ以上ノ動作ヲ為シ続テ前進ス爾余ノ兵卒及車馬ハ之ニ続行ス少シク方向ヲ換ヘシムルニハ予メ新目標（方向）ヲ示スヘシ 第百二十五 制転機ノ操作ハ通常二番之ニ任スルモノトス 第百二十六 鳩車ヲ整置スルニハ分隊長其位置ヲ選定シ分隊ヲ其近傍適当ナル地点ニ誘導停止セシメ適宜武装ヲ解カシメ次テ鳩車ヨリ脱駕シ鳩車ノ位置及方向ヲ示シタル後左ノ号令ヲ下ス 鳩車（クルマ）ヲ据ヘ 一番及二番ハ轅木ヲ支持シテ鳩車ヲ所命ノ位置ニ据ヘ二番及三番ハ支桿ヲ地上ニ固定シ四番ハ車輪ニ歯止ヲ為シ一番ハ二番ト共ニ到着台及事務台ヲ扛起ス操作終レハ一番乃至四番ハ定位ニ就ク脱駕セル輓馬ハ器材車ノ後尾ニ就ク 第百二十七 卸下スヘキ器材ノ種類及員数ハ状況ニ依リ分隊長之ヲ定ム然レトモ少クモ飼育器材ハ鳩車ノ整置ト共ニ之ヲ卸下スルコト必要ナリ 器材ヲ卸下スルニハ分隊長卸下スヘキ器材ノ種類及其整頓位置ヲ指示シタル後左ノ号令ヲ下ス 卸セ 五番乃至八番ハ直ニ器材ヲ卸下シ所命ノ位置ニ之ヲ整頓シ操作終レハ定位ニ就ク 分隊長ハ要スレハ他ノ鳩手ヲシテ器材卸下ヲ援助セシム 卸下終レハ分隊長ハ適当ナル位置ヲ指示シ鳩手一名ヲシテ鳩車輓馬及器材車（輓馬共）ヲ誘導セシム 第百二十八 器材ヲ積載スルニハ器材ヲ整頓シタル後左ノ号令ヲ下ス 積メ 五番乃至八番ハ直ニ器材ヲ積載シ操作終レハ定位ニ就ク 分隊長ハ要スレハ他ノ鳩手ヲシテ器材積載ヲ援助セシム 器材車ニ輓馬ヲ繋駕スヘキヤ否ヤハ状況ニ依リ分隊長之ヲ定ム 第百二十九 鳩車整置ノ位置ヨリ運動ノ姿勢ニ移ルニハ左ノ号令ヲ下ス 整置ヲ解ケ 一番乃至四番ハ第百二十六ト概ネ反対ノ順序ニ操作ス 操作終レハ分隊長ハ要スレハ鳩車ヲ繋駕ニ便ナル位置ニ移動セシム 次ニ分隊長ハ繋駕ヲ命ス繋駕終レハ各兵卒ハ定位ニ就ク 第三章 小隊教練 第百三十 小隊教練ノ目的ハ小隊ヲシテ小隊長ノ号令若ハ命令ニ従ヒ斉整確実ニ規定ノ諸運動ヲ実行シ得シムルニ在リ 分隊長ハ要スレハ其部下ノ為スヘキ動作ヲ小声ニテ予告スルモ妨ナシ 第百三十一 小隊ノ隊形ハ横隊及縦隊トス横隊ハ主トシテ集合ニ縦隊ハ主トシテ運動ニ用フ小隊付下士卒ハ右翼又ハ先頭分隊ト共ニ行動スルモノトス 時宜ニ依リ分隊ハ番号ノ順序ニ拘ラス排列シ又距離間隔ハ之ヲ伸縮スルコトヲ得 第百三十二 横隊及縦隊ノ隊形左ノ如シ
第百三十三 横隊ニ於ケル整頓完全ナルトキハ最前線ノ各馬頭ノ前端ハ整頓線上ニ在リテ間隔ヲ保チ各車馬ハ整頓線ト直角ニ位置スルモノトス 第百三十四 横隊ニ在ル小隊ヲ整頓セシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 嚮導何歩前ヘ 分隊長ハ前進シ小隊長ハ其位置ヲ正ス 次ニ左ノ号令ヲ下ス 右（左）ヘ準ヘ 直レ 「準ヘ」ノ動令ニテ分隊ハ概ネ一斉ニ前進シ整頓線ヨリ少シク後方ニ止リ最前線ノ馭卒及鳩手ハ整頓線ニ出テ頭ヲ右（左）ニ廻シテ定間隔ヲ保チ馭卒ハ馬ノ頭ヲ整頓線ニ揃ウ爾余ノ兵卒ハ先ツ正シク前方ニ重リ距離ヲ取リ次ニ右（左）ノ方ニ整頓ス 「直レ」ノ号令ニテ兵卒ハ頭ヲ正面ニ復ス 第百三十五 行進ニ在リテハ基準分隊ハ直進シ各兵各馬ハ定距離定間隔ヲ保持スルモノトス 第百三十六 小隊ヲ止ラシムルニハ「小隊止レ」ノ号令ヲ下ス 「止レ」ノ動令ニテ小隊ハ停止ス 第百三十七 縦隊ノ方向ヲ換ヘシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 伍々右（左）ヘ進メ 先頭分隊ハ第百二十四ノ要領ニ準シ伍々右（左）ニ方向ヲ変換シ爾余ノ分隊ハ之ニ続行ス 第百三十八 横隊ニテ停止シアルトキ同方向ニ縦隊ヲ作ラシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 右（左）ヨリ縦隊進メ 予令ニテ小隊付下士卒ハ駈歩ヲ以テ右（左）分隊ノ先頭ニ就ク動令ニテ右（左）分隊ハ直進シ其他ノ分隊ハ第百二十四ノ要領ニ準シ右（左）ヘ少シク方向ヲ変換シ適宜縦隊線ニ入ル 第百三十九 縦隊ヨリ同方向ニ横隊ヲ作ラシムルニハ左ノ号令ヲ下ス 左（右）ヘ前面横隊進メ 「進メ」ノ動令ニテ先頭分隊ハ概ネ分隊ノ深サ丈直進シタル後停止シ小隊付下士卒ハ右翼分隊ノ右ニ至リテ定位ニ就キ爾余ノ分隊ハ第百二十四ノ要領ニ準シ左（右）ヘ少シク方向ヲ変換シ逐次新線ニ就キ軸翼分隊ニ準ヒ停止ス 第百四十 積載卸下及鳩車ノ整置並撤去ハ小隊長ノ命令ニ基キ通常分隊毎ニ行フモノトス 自動貨車ヲ以テ鳩車ヲ牽引スル場合ニ於テハ鳩小隊所要ノ人員及器材等ハ自動貨車ニ乗車（積載）スルモノトス 第百四十一 小隊長通信所位置偵察ノ為小隊ヲ離ルルニ方リテハ其指揮ヲ先任分隊長ニ委ネ且之ニ集合地若ハ行進方向等ヲ指示スヘキモノトス 第百四十二 小隊長分隊ニ通信所ヲ開設セシムルニ方リテハ其任務等ヲ顧慮シ要スレハ適宜小隊付兵卒ヲ配属スヘキモノトス 第百四十三 数箇ノ鳩車カ一地ニ相接近シテ整置セラレタルトキハ其通信所勤務警戒等ノ業務ハ小隊長之ヲ統轄スルヲ有利トス 第百四十四 小隊長ハ鳩通信所開設間又ハ待命間ニ於ケル輓馬ノ利用ヲ計画スルノ外之ニ適度ノ運動ヲ課スルコトヲ忽ニスヘカラス |
